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緒言

顎顔面を中心とした頭蓋の形態形成は、胎生期の極めて早い時期に起きるため、遺伝的要因はもとより、多くの環境的要因や、いわゆるunknown factorによって、先天異常が生じてくると考えられている。殆どの唇裂・口蓋裂の患児で咬合異常を認めるが、歯科医学基準からは重度な咬合異常と判断される場合が多い。
その中に、第6回「咬合誘導研究会」のシンポジウムのテーマである「先天性欠如歯」は、とりわけ高頻度に見られる異常の一つである。このような患者の咬合誘導に当たっては、矯正歯科学的な治療をはじめ、小児歯科、補綴歯科、口腔外科(インプラント科)、歯周歯科や小児科、耳鼻咽喉科、形成外科等との包括診療が必要となる。つまり、その大切な、口腔の機能と育成を図る上で、各専門分野の間の緊密な連携のもとに医療が遂行されなくてはならない。




1)はじめに
従来、先天性欠如歯の統計調査については、愛知学院大学歯学部の調査等種々の臨床統計発表がある。これらは、健常児に関するもので、特に口唇口蓋裂児等の例は除外してある。健常児の先天性欠如歯の発生頻度は下表1のとおりで、約1割未満となっている。

親里 の 調査:発現頻度は12.2%
柳田、森らの調査:発現頻度は7.87%
愛知学院の調査:発現頻度は2.8% (177/6299)
嘉ノ海 の調査:発現頻度は8.4% (261/3117)
表1 先天性欠如歯の統計調査 健常児 (口唇口蓋裂児を除く)

次に、口唇口蓋裂児に限った統計調査での先天性欠如歯の発生頻度は、下表2のとおりで、調査結果の数値にばらつきがあるものの、概ね50から60%の極めて高頻度の結果となっている。

松尾(上顎)の調査:発現頻度は71.8% (61/85)
大橋(含乳歯)調査:発現頻度は46.9% (122/260)
宮澤  の  調査:発現頻度は65.5% (273/417)
稗田(上前歯)調査:発現頻度は56.3% (90/160)
大矢  の  調査:発現頻度は62.9% (273/417)
嘉ノ海 の  調査:発現頻度は26.6% (63/237)
居波  の  調査:発現頻度は57.5% (127/221)今回の調査
表2 口唇口蓋裂児の先天性欠如歯の統計調査




2)調査対象
調査対象はわたくしの医院(いなみ矯正歯科;いなみ矯正・小児歯科クリニックから1995年名称改変)に、1981年の開業以来2000年末までの20年間に初診来院した口唇口蓋裂児221名である。これら221名の唇顎口蓋裂児の初診時平均年齢は8歳4ヶ月で、最低初診時年齢1歳11ヶ月、最高初診時年齢24歳2ヶ月であった。また、男女差では男子127名、女子98名で男女構成比率は57.5%:42.5%であった。




3)調査結果
これら調査対象となった221名の唇顎口蓋裂児の型別頻度は下表3で、唇顎裂・唇顎口蓋裂・口蓋裂の構成比を下図1に示した。

唇顎裂:22名 (10.0%)
       左側唇顎裂:14名 (6.3%)
       右側唇顎裂: 7名 (3.2%)
       両側唇顎裂: 1名 (0.5%)
唇顎口蓋裂:163名 (73.7%)
       左側唇顎口蓋裂:81名 (36.6%)
       右側唇顎口蓋裂:31名 (14.0%)
       両側唇顎口蓋裂:51名 (23.1%)
口蓋裂:36名 (16.3%)
表3 唇顎口蓋裂の型別頻度 (全221名)


図1 唇顎裂・唇顎口蓋裂・口蓋裂の構成比

さらに、左右差を加味して唇顎口蓋裂の詳細型別頻度をグラフにすると下図2のとおりである。


図2 唇顎裂・唇顎口蓋裂・口蓋裂の詳細構成比

唇顎裂児(22名)の型別頻度は下図3のとおり。


図3 唇顎裂児(22名)の型別頻度

唇顎口蓋裂児(163名)の型別頻度は下図4のとおり。


図4 唇顎口蓋裂児(163名)の型別頻度