平成13年10月9日
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9:III級不正咬合の鑑別診断 --1

従来のIII 級不正咬合症例の難易判定法をまとめますと下記のようになります。
     仮性下顎前突        真性下顎前突
     やさしい反対咬合      難しい反対咬合

分類   アングル I 級        アングル III 級

顔貌   比較的良好         下顎、オトガイ部の突出
     顔面中央部の陥凹感 
歯列咬合 前歯部の被蓋は深い     前歯部の被蓋は浅い
                       (開咬)
     上顎切歯の傾斜は垂直に近い 上顎切歯は前方に傾斜する
     下顎切歯は前方に傾斜する  下顎切歯は後方に傾斜する
     臼歯部の咬合関係は正常位  下顎近心咬合  

セファロ ANB:正常範囲、少し(-)   (-)を示す
     FMA:正常範囲、少し(-)   一般に大きい
     Gonial:正常範囲      一般に大きい 


構成咬合 下顎後退性:可能      下顎後退性:不可能
その他  歯槽性か機能的なもの    構造的なもの

 しかし日常の矯正臨床では、乳歯列期より早期治療を行っても、反対被蓋の改善が充分に出来にくい症例や、いったん永久前歯の被蓋が改善されても、混合歯列期の後半に、あともどりして、反対被蓋となってしまい、その後、下顎骨の過成長が生じて、外科矯正の適応となる症例があります。そこで、三番目の問題提起である、初診時だけの静的診断(歯牙年齢IIAからIIIA期の横断的資料に基づいた矯正診断)ではなく、類似した治療を同期間行った症例の動的変化を縦断的に調査することにより、何か鑑別診断の指標が求められるのではないかと考え、調査しました。



1) 研究の目的

 混合歯列前期の反対咬合の患者に対し、被蓋改善のために、上顎歯列弓の急速拡大と上顎の前方牽引により、「上顎骨の成長促進によるA点の前方移動」を行った症例の治療評価を基にして鑑別診断の可能性について調査することです。 今回の調査に使用した、矯正装置の概略は下記のものです。
 本研究に使用した装置は、全て上の図の様に、混合歯列前期の歯列弓側方歯の歯冠を歯頚部まで完全に覆い、バイトプレーン効果のあるレジンブロック製で、固定式の上顎急速拡大装置を用いました。所定量の拡大後に、スクリューを固定してから上顎骨前方牽引を開始しました。前方牽引装置は市販の商品名フェイスクリブを使用しました。




2) 研究の対象

 研究対象は平成元年以降に当医院を受診、治療を開始した、6歳から9歳までの、男・女児合わせて40名の反対咬合者で、初診時セファログラム(セファロ1)や口腔模型、装置装着等の記録用紙が揃っている場合としました。治療経過と資料採得の時期は、下の図の様に、初診時の資料採得、上顎に急速拡大装置を装着し、側方拡大量約5mm を目標に、16日から20日間拡大しました。側方拡大終了直後より、上顎前方牽引装置を約6ヵ月間装着してもらいました。その後、急速拡大装置も撤去して、セファロ2を撮影しました。
 この時、咬合が安定するように、チョンパーズを毎日1分間、きつく噛ませて、定期観察を続けました。(最近では、下図の様にフレンケルIII矯正装置も使用しています。)それから、1〜2年後の、咬合が安定したと思われた時点で、セファロ3を採得しました。


研究対象となった、平成元年以降に当医院を受診、治療を開始した、6歳から10歳までの、男・女児合わせて40名の反対咬合者の内訳は下の表のとおり。