平成13年10月9日
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1:はじめに

『健康日本21』や『8020運動』を通じて、噛むことと全身の健康の繋がりとその重要性が言われております。噛むことは、栄養摂取の手段であるだけでなく、脳機能への影響など最近ではより高次レベルで意味があることを示すデータがあり、咬合機能と全身の健康の関連性についての多くの研究から様々なエビデンスがでてきております。噛む機能の中心は咬合であり、不正咬合の増加する成長発達期は、乳歯の萌出から、混合歯列期、永久歯列期へと進み、骨の成長や神経筋機能の発達が活発になる時期です。咬合の発達過程において、形態と機能の調和を保つことにより、機能面あるいは顎関節の形態をも正常な成長へと誘導しうることが示されており、咬合の問題をできるだけ早期に正常な状態へ導く概念とその治療体系が重要となってきております。今回は、反対咬合の医療体系の中で早期治療の切り口から、その特徴や鑑別診断についてディスカッションすることを主眼としました。

 日常臨床の中で、反対咬合の早期治療を行なった場合に、
1:乳歯列期より早期治療を行っても反対被蓋の改善が充分に出来にくい症例、
2:一旦永久前歯の被蓋が改善されても、混合歯列期中に後戻りして反対被蓋となる症例や、
3:永久歯列期中に下顎骨の過成長等が生じて、外科矯正の適応となる症例もあると考えられます。

 そこで、日々の口腔成育・咬合誘導の臨床の反省から3つの問題点を提起したいと思います。
 まず、第一番目は、骨格性の反対咬合であっても、積極的に早期治療を行えば治癒できるといった考え方と、真性の骨格性反対咬合症例は早期よりアプローチしても、成長・発育により再発し、矯正治療単独では治療困難とする考え方の是非について。
 二番目は、歯槽性または機能的な反対咬合を放置すると、骨格性の下顎前突症に移行するといった考え方と、この様な場合は、骨格性の下顎前突症が初診時において、正確に診断されなかったためで、遺伝的な素質は矯正治療の有無によっても左右できないとする考え方の是非について。
 三番目は乳歯〜混合歯列前期の横断的資料だけで、的確な矯正診断や鑑別診断等の将来予測が可能とする考え方と、初診時だけの静的診断ではなく、類似した治療を同期間行った症例の動的変化を縦断的に調査することにより、鑑別診断の指標が求められるとする考え方の是非等です。

 以上の問題点を明らかにするために、みなさんとディスカッションしていきたいと存じます。
 今回は、主に三番目の早期治療効果の経年的変化の観察により、鑑別診断の指標が求められるか否かについてディスカッションしたいと思っています。